歌舞伎の鬘

歌舞伎に欠かせないものの一つ、鬘。

美しく結いあげられた鬘はもはや芸術品です。

 

 

鬘の名前を言えるとチョット “ 歌舞伎通 ” ♡

役によって、職業によって、身分によって…

鬘を見ただけでその役がどんな人物かと判断する一つの要素です。

「この役にはこの鬘」というのがだいたい決まってはいますが、

演じる役者によって、また、家によって細かい部分が多少異なる場合もあるので観察のしがいがあります。

 

 

歌舞伎の鬘を見ていて、

「江戸時代、こんな髪型だったんだろうな」と思うものもあれば

「暫」の主人公・鎌倉権五郎の鬘 “五本車鬢(ごほんくるまびん)”のように歌舞伎ならではの過剰な表現をしたものもあります。

 

 

 

今回はそんな奥深き鬘の世界にスポットをあてイラスト付きでご紹介致します♪

くるまびん

車鬢

両サイドの「鬢(びん)」と呼ばれる部分をわけて束ね、固めた髪型。

これが車の輻に似ていることからこの名前がついています。

昔の人はこんな髪型をしていたの!?

 

いえいえ、そんなわけありません。

力強さ、荒々しさを過剰に表現する、これが歌舞伎の荒事(あらごと)と呼ばれるものなのです。

 

イラストは歌舞伎十八番の「暫(しばらく)」の主人公である鎌倉権五郎(かまくらごんごろう)。

これは両サイドに五本ずつ束ねられた「五本車鬢(ごほんくるまびん)」と呼ばれるもの。

 

車鬢は「荒事」に用いられる鬘で、他には「景清(かげきよ)」、

両サイドの鬢を七本ずつに束ねた「七本車鬢」は「矢の根(やのね)」などでも見ることができます。

だてひょうご

伊達兵庫

独特な髪型ですよね。

大きな珊瑚の玉簪と松葉の簪を縦方向に挿すのが決まりです。

 

豪華でありながらキラキラしすぎないところが江戸の粋。

 

ベッコウの簪の数はなんと約20本!!

さぞかし重いことでしょう。

 

鬘は2Kg以上あるそうですよ。

後ろにも注目してみましょう。

イラストは「揚巻結び(あげまきむすび)」という結び方です。

他に「菊結び」「梅結び」などがありますので、ご覧になる機会がありましたら後ろにもぜひ注目してみてください。

「助六」に登場する揚巻(あげまき)は別格ですので、「揚巻結び」という特別な結び方をします。

ふきわ

吹輪

 

この髪型は実際に江戸時代初期、姫君が結っていた髪型です。

しかし、

歌舞伎ではより華やかに演出するため、髷(まげ)と呼ばれる後ろで結っている部分を大きめにしたり、装飾を舞台映えするような豪華なものにしています。

歌舞伎に登場するお姫様は赤い着物をきていることが多いため、

お姫様のことを「赤姫(あかひめ)」といいます。

その赤姫はみんなこの鬘です。

華やかな前挿(まえざし)がお姫様らしいですね。花の部分の素材は紙です。

梅の花に蝶が飛んでいます。

後ろは鼓の形をした飾りがまた豪華で美しい。

髷(まげ)を大きく輪のように結っています。

​ふたつおり

二つ折

注目したいのは髷(まげ)の形。

髷は「ちょんまげ」の「まげ」ですね。

後ろで結ってる部分のことです。

イラストは「二つ折」と言って二枚目の役に用いられるもの。

「二枚目」の語源は歌舞伎からきていますが、現代でも使いますよね。

色男のことを言います。

両サイドから、つーっと一筋垂れている部分を「しけ」と言いますが、これがあることによってさらに色っぽく見えるんです。

​さっこうがい・さきこうがい・さっこ・さっこう

先笄

 

ちょっと複雑な結い方ですね。

描くのもちょっと難しかったです。。(^_^;)

この髪型には名前の通り「笄(こうがい)」が必要不可欠。

「笄(こうがい)」というのは、髪を結うために使うもの。

イラストで言うと青い部分から何か突き出てますよね。

これは一直線に向こう側からも突き出ているのですが、これが笄です。

これは実際に江戸時代後期に西日本を中心に町家の若い既婚女性、少し裕福な既婚女性が結っていました。

浮世絵でもよく描かれています。

現代でも

舞妓さんが芸妓さんになる直前に約2週間だけ結うのもこの髪型です。

​むらさきぼうし

紫帽子

イラストのように女形の鬘で前髪の部分を覆うように紫の布をつけているのをわりとよく見かけます。

これは「紫帽子」と言います。

 

 

なぜ前髪を覆うようにつけているのでしょうか。

 

これには理由があります。

野郎歌舞伎の時代、役者は前髪を剃り落としたスタイルの「野郎頭」と呼ばれるものでした。

 

しかし、女形が野郎頭では色気がありませんよね。

そこで、その剃り落とした前髪部分を隠すように布をつけたといいます。

また、鬘(かつら)が出来てからも生え際が現在のように美しくはありませんでした。

それを隠すために布をあてたそうです。

 

‥と、なると

現在では覆い隠す必要はなさそうですが、

この紫帽子を今でもつけるのは、“古風な雰囲気”を出すためです。

この時に眉毛はイラストのように少し隠れるように描くのが決まりで、女房役ならば眉は描きません。

​ごじゅうにち

五十日

 

見ての通り、名前の通り、

“五十日”間も手入れをせずに伸ばした状態というこの鬘。

正式には「油付箱鬢五十日前茶筅」という名前だそうですよ。

 

 

「三十日」と呼ばれるややフサフサな状態や

 

「百日」「大百日」のボーボー状態もありますよ。(石川五右衛門など)

 

 

これらは牢に入って髪の毛すら剃っていない悪人などに使用しますが、

イラストは菅原伝授手習鑑・寺子屋の松王丸です。

寺子屋で松王丸は仮病の設定なので髪が伸びています。

 

 

また歌舞伎の決まりごとで「紫の鉢巻」をどっちに結ぶかで“あること”がわかります。

 

結び目が“右”の場合は喧嘩に強いパワーのある色男。ご存知、「助六」ですね。

 

結び目が“左”の場合は「病」の証です。

イラストの松王丸は仮病の設定なので髪も伸びっぱなしで病鉢巻をしています。

 

鬘だけでここまでわかっちゃうから面白いですね。

 

ちなみに、松王丸の鬘は前半と後半で大きさが異なりますよ。

それは是非その目で確かめてくださいね♪

なまずぼうず​​

なまず坊主

「暫(しばらく)」に登場する鹿島入道震斎(かしまにゅうどうしんさい)=通称:鯰坊主(なまずぼうず)。

 

この役に用いられる鬘です。

つるつる坊主に、鬢(びん)の部分を長く長く結って…まるで鯰のようでしょう?

描けばよかったですが、

隈取も「鯰隈(なまずぐま)」という面白い隈取で、衣装も独特です。

 

 

いかがでしたか。

 

綺麗な飾りがいっぱい付いている女形の鬘に注目してしまいますが

実は、立役の鬘のバリエーションは女形の倍以上といいます。

気にしてないと見逃すほどの違いだったり、

でも言われてみれば確かに違う!サイズが!飾りが!結い方がー!!

と、私も観劇の際にはもっと細かい部分に注目して観てみます♪

 

そして新しい発見があればそれをまたここで共有していきますね。

下川智子

 

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